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債権譲渡禁止特約とは、企業間の取引などにおいて「この債権を第三者に譲渡してはならない」と定める契約上の条項を指します。
例えば、売掛金(売掛債権)をファクタリング会社などに売却(譲渡)する際、売掛先との契約にこの特約が含まれていると、原則として譲渡が制限される仕組みになっています。
かつては、この特約が資金調達の妨げとなり、企業の資金繰りや経営判断に影響を与えるケースも少なくありませんでしたが、民法改正によってこの制約は大きく見直され、一定の条件下では譲渡が有効とされるようになりました。
今回は、譲渡禁止特約の課題・改正後の影響、ファクタリング利用における注意点、民法が改正されても譲渡できない債権についてご紹介します。
ファクタリングをご利用の方は、ぜひご一読ください。
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企業が資金繰りを円滑に進めるための手段として、ファクタリングを活用する動きが広がっています。
しかし、売掛金を売却する際に「譲渡禁止特約」が設けられていると、取引がスムーズに進まないケースが多く見られました。
こうした状況を受け、2020年4月の民法改正によって譲渡禁止特約に関するルールが見直され、企業の資金調達の在り方にも変化が生まれています。
ここでは、改正前に存在していた譲渡禁止特約の課題と、新たな制度の内容、そして改正によって企業が得られるメリットについて解説します。
ファクタリングと債権譲渡の違いについては下記コラムで詳しく解説しています。
ファクタリングと債権譲渡の違いは?主な相違点と債権譲渡登記について解説!
改正前の債権譲渡禁止特約の課題には、主に以下の3つがありました。
・資金調達方法に制限がかかっていた
・事業成長の機会を失っていた
・取引先との交渉力が低下していた
それぞれ詳しく解説します。
民法改正前の債権譲渡禁止特約のもとでは、企業が保有する売掛金を自由に売却できないケースが多く見られました。
債権譲渡を禁止する条項が契約に含まれていると、売掛先の承諾なしにファクタリングなどの資金調達方法を利用することが難しくなっていたためです。
本来であれば、売掛金をファクタリング会社に売却して早期に現金化することで、仕入れや人件費などの支払いに充てることができるはずですが、譲渡禁止特約によってその選択肢が閉ざされていました。
とくに中小企業やスタートアップなど、手元資金に余裕がない企業にとっては、この債権譲渡禁止特約が大きな負担となっていたのです。
結果として、資金繰りの柔軟性が損なわれ、金融機関からの借り入れ以外の方法で現金を確保することが難しい状況に置かれていました。
民法の改正前は、現金を円滑に確保できないことが企業の成長戦略にも影響を与えていました。
売掛金を活用した資金調達が難しかったため、企業は新規事業への投資や設備拡大、人材採用といった前向きな取り組みをためらわざるを得ない状況に置かれていたのです。
手元資金を確保するために、取引条件の見直しや支出の抑制を優先せざるを得ず、結果として事業拡大のチャンスを逃すケースも少なくありませんでした。
とくに、成長段階にある中小企業やスタートアップにとっては、こうした資金制約が事業のスピードを鈍らせる大きな要因となっていました。
多くの取引では、発注側である大企業が優位な立場にあり、その要請によって譲渡禁止特約が契約書に盛り込まれることが一般的でした。
中小企業としては、取引を継続するために不利な条件であっても受け入れざるを得ず、特約の撤廃や修正を求めることは現実的に困難だったのです。
その結果、売掛金を自由に扱えないだけでなく、資金調達や経営判断の自由度までも制約される状況が続いていました。
さらに、こうした契約構造は金融機関との交渉にも影響を及ぼしました。
譲渡禁止特約の付いた売掛債権は担保として活用できないため、融資審査で不利な評価を受けたり、高い金利を提示されたりするケースも見られました。
債権譲渡禁止特約は、単なる契約上の条項にとどまらず、中小企業の交渉力の弱さを象徴する存在でもあったのです。
2020年4月の民法改正により、債権譲渡禁止特約をめぐるルールは大きく見直されました。
改正後は、契約に譲渡禁止特約が定められていても、原則として債権譲渡が有効とされています(民法第466条第2項)。
これにより、取引先の承諾がなくても、企業は自社が保有する売掛債権を第三者に譲渡し、早期に現金化することが可能になりました。
従来は債権譲渡禁止特約が壁となり、ファクタリングなどの資金調達方法を活用しにくい状況にありましたが、改正によって柔軟な資金運用ができる環境が整備されたといえます。
もっとも、この改正は債務者に一方的な不利益を与えるものではありません。
債務者の立場にも十分な配慮がなされており、保護の仕組みがあわせて設けられています。
具体的には、債務者は譲渡禁止特約の存在を知っていた、または重大な過失によって知らなかった第三者(=悪意または重過失の譲受人)から支払いを求められた場合には、その支払いを拒むことができます(民法第466条第3項)。
この規定によって、債務者が不誠実な譲受人に不当に支払いを強いられることを防ぐことができます。
また、債務者が「誰に支払うべきか判断が難しい」といった状況に陥った場合には、供託制度を利用して二重払いのリスクを回避できる仕組みも用意されています。
供託制度とは、支払先が不明確な場合などに、債務者が支払金を法務局などの供託所に預けることで、実際に支払ったのと同じ法的効果を得られる制度です。
これにより、債権譲渡をめぐるトラブルが発生した場合でも、債務者が法的に安全な立場を保てるようになっています。
このように、改正後の制度は、企業がファクタリングをはじめとする資金調達方法をより活用しやすくする一方で、債務者の保護にも十分に配慮されたバランスの取れた仕組みとなっています。
改正は、現金の流動化を促進しつつ、取引の公正さを守ることを目的とした実務的な改善といえます。
債権譲渡禁止特約の改正によって企業が得られるメリットは、主に以下の4つです。
・資金調達の柔軟性が向上した
・ファクタリング契約の種類を使い分けられるようになった
・企業の信用管理とリスク回避の精度が向上した
・事業成長の可能性が高まった
それぞれ詳しく解説します。
民法改正によって譲渡禁止特約の制約が緩和されたことで、企業はより柔軟に現金を確保できるようになりました。
従来は売掛先の承諾が得られず実施が難しかったファクタリングも、法的に認められるケースが増えたためです。
とくに、中小企業や新規事業を展開するスタートアップにとっては、銀行からの借り入れに頼らず、保有する売掛金を売却して早期に現金化できるファクタリングを利用できるようになった点は大きなメリットです。
具体的には、季節商戦の前に必要な仕入資金を確保したり、急な取引先の支払遅延に備えて現金を確保したりと、短期的な資金ニーズにもファクタリングを利用することで、スピーディーに対応が可能となりました。
また、現金流動性の向上は金融機関からの信用力にも良い影響を与え、融資条件の改善や取引先との交渉力向上にもつながります。
これにより、企業は突発的な支出や市場変動に対しても柔軟に対応でき、経営の安定性が格段に高まっています。
民法改正により、債権譲渡の自由度が高まったことで、企業は自社の状況に応じてファクタリング契約の種類を選択できるようになりました。
従来は譲渡禁止特約の影響で、ファクタリングを選択できない場合もあり、資金調達の幅が制限されていました。
しかし、改正後は、売掛先に承諾を得ずに売掛金を売却できる「2者間ファクタリング」と、承諾を得てから売掛金を売却する「3者間ファクタリング」を状況に応じて使い分けることが可能です。
例えば、緊急で現金化が必要な場合は2者間ファクタリングを選択し、売掛先からの承諾を得ることなくスピーディーに現金を確保できます。
一方で、3者間ファクタリングを利用すれば、手数料を抑えてファクタリングを利用することができます。
これは売掛先も契約に加わることで、ファクタリング会社が売掛金の存在を売掛先に直接確認でき、ファクタリング会社の未回収リスクが軽減されるためです。
企業は経営戦略や取引関係に応じて柔軟にファクタリングの契約形態を選択できるので、現在は経営の機動性が飛躍的に向上しています。
2者間ファクタリングについては下記コラムで詳しく解説しています。
2者間ファクタリングとは?メリットや手数料、利用のポイントを解説
3者間ファクタリングについては下記コラムで詳しく解説しています。
3者間ファクタリングとは?メリット・デメリットと利用の流れを解説!
民法改正により、企業は債権譲渡をより自由に行えるようになっただけでなく、売掛先の信用力をより高い精度で把握・管理できるようになりました。
改正後は、ファクタリング会社などの第三者を介して売掛金を売却することが可能になり、売掛先の支払能力をファクタリング会社の審査を通じて、客観的に評価できるようになったためです。
これにより、企業は取引リスクを事前に把握しやすくなり、信用管理の精度が大きく向上しています。
さらに、売掛金の売却が原則有効となったことで、未回収リスクに備えた柔軟な資金戦略を取ることも可能になりました。
売掛先の信用不安が生じた場合でも、ファクタリングを活用することで未回収リスクの軽減もできるためです。
このように、債権譲渡の自由化は、単なる資金調達の柔軟化にとどまらず、企業が信用情報を管理し、リスクを戦略的にコントロールするための基盤を整える重要な改正となりました。
ただし、ファクタリング会社の審査による情報については、あくまで参考程度にとどめ、最終的な信用管理や与信判断は自社の基準で行うことが大切です。
債権譲渡の自由化は、企業が攻めの経営に転じるための大きな追い風となっています。
譲渡禁止特約の制約により売掛金を現金化できなかった企業も、改正後はファクタリングを利用して必要な現金をスピーディーに確保できるようになっています。
これにより、金融機関への借り入れに依存せず、設備投資や人材採用、新規事業への挑戦など、成長戦略を積極的に実行することが可能となりました。
具体例として、ファクタリングを利用することで大口受注に対応するための機械設備の購入、海外市場向けの事業展開に伴う運転資金の確保、急な人材採用や研修費用の準備など、現金の不足によって先送りされていた施策を迅速に実施できるようになっています。
さらに、資金流動性の確保は経営判断のスピード向上にもつながり、取引先との契約交渉や事業拡大のタイミングを逃さず対応できます。
これにより、企業の競争力向上と事業成長の可能性が大きく広がっています。
債権譲渡禁止特約の改正は、資金調達の柔軟化、契約形態の選択肢拡大、信用管理の強化、事業成長の支援という多面的なメリットをもたらしています。
単なる制度改正ではなく、中小企業や成長企業が現金を戦略的に活用し、経営のスピードと機動力を高めるための実務的な改善策といえるでしょう。

民法改正により、債権譲渡禁止特約が設定されている場合でも、原則として売掛金をファクタリング会社に売却できるようになりました。
改正前は、取引契約書に「この債権を第三者に譲渡してはならない」と定められていると、その売掛金を現金化することがほぼ不可能でした。
しかし改正後は、債権譲渡禁止特約があっても、売掛金の売却は原則として有効とされています。
これにより、企業はより柔軟に資金調達を行うことが可能になりました。
ただし、ここで注意すべきなのが「売掛先(債務者)」の保護も同時に規定されている点です。
民法第466条第2項では、ファクタリング会社などの第三者が、譲渡禁止特約の存在を知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合には、売掛先は支払いを拒否できると定められています。
つまり、ファクタリング会社側に「悪意」または「重過失」があった場合、売掛金の売却が行われても、売掛先は支払いを拒否することができるということです。
このリスクは、ファクタリングの契約形態によっても異なります。
前述したように、ファクタリングには「2者間ファクタリング」と「3者間ファクタリング」があり、それぞれ承諾の有無によって法的な位置づけが異なります。
2者間ファクタリングでは、売掛先からの承諾が不要なため、売掛金の現金化をスピーディーに進められるのが特徴です。
また、売掛先に承諾を得ないという性質上、売掛先との取引関係に影響を与えにくいという実務上の利点もあります。
ただし、債権譲渡禁止特約が設定されている売掛金をファクタリング会社に売却した場合、民法第466条第2項の規定により、ファクタリング会社がその特約の存在を知っていた、または重大な過失で知らなかったと判断されれば、売掛先が支払いを拒むことが認められます。
2者間ファクタリングのように通知せず(承諾を得ず)売却する場合は、このリスクが低いものの、債権譲渡登記が必須のサービスを利用した場合や、トラブルが発端で売掛先への通知が必要になった場合、ファクタリング利用の事実を売掛先が知る可能性もあるため、完全に排除できるわけではありません。
したがって、ファクタリングを利用する前に、売掛先との契約書で債権譲渡禁止特約が設定されていないかを必ず確認することが重要です。
3者間ファクタリングでは、売掛先からの承諾を得た上で取引が進みます。
売掛先が譲渡禁止特約の存在を認識した状態で承諾を行うため、民法第466条第2項の「悪意・重過失による支払拒否」のリスクは発生しません。
つまり、売掛先保護の規定を踏まえつつも、利用者は法的リスクを低く抑えながらファクタリングを利用できるという特徴があります。
ただし、事前に売掛先との契約書で譲渡禁止特約の有無を確認せずにファクタリングに申し込むと、売掛先から「契約内容を把握していない」と見なされ、信用を損なう可能性があります。
したがって、3者間ファクタリングを利用する場合も、事前に契約書を正確に確認することが不可欠です。
このように、民法改正によってファクタリングの利用は容易になったものの、債権譲渡禁止特約に関する理解を誤ると、思わぬトラブルを招く可能性があります。
契約書の確認とリスク管理を徹底し、安全かつ効果的にファクタリングを活用していくことが、企業の資金戦略において欠かせないポイントといえるでしょう。

民法が改正されても、そもそも譲渡が認められていない債権があります。
具体的には、法律で譲渡が制限されている債権や、個人特有の権利として譲渡が認められない債権です。
これらの債権は、民法が改正されても譲渡ができないため、ファクタリングやそのほかの売却手段を利用することはできません。
ここでは、民法が改正されても影響を受けない債権についてご紹介します。
民法が改正されても、法律によってそもそも譲渡が禁止されている債権については譲渡自体ができません。
これらは、債権者の生活や社会保障に直結する重要な権利であることが多く、第三者に譲渡されることで不当な不利益が生じないよう、法律で保護されています。
代表的な例として、「給料・賃金債権」があります。
これは労働者が働いた対価として受け取る権利であり、生活の基盤となる重要なものです。
そのため、給与は原則として労働者本人に雇用主(使用者)から直接支払われる必要があります。
第三者に譲渡することは法律上認められておらず、ファクタリングなどで現金化することもできません。
また、「社会保険給付請求権」や「生活保護受給権」も同様に、個人の生活や社会保障を目的としているため、譲渡は認められていません。
これらの権利を譲渡してしまうと、給付の本来の目的が損なわれ、債務者や行政機関、あるいは社会全体に不利益を与える可能性があるため、法律で譲渡が禁止されています。
このように、民法が改正されても譲渡できない債権も存在します。
現金化や債権管理の際には譲渡禁止特約だけでなく、法律上譲渡が禁止されているかどうかもあわせて確認することが重要です。
民法が改正されても、個人特有の権利に基づく債権は、法律上原則として第三者に譲渡できません。
これらの債権は、債権者本人の人格や個人的事情に密接に結びついているため、他者に譲渡されることが不適当とされます。
そのため、ファクタリングなどで現金化することもできません。
代表的な例として「慰謝料請求権」があります。
これは、精神的苦痛や身体的被害に対する賠償を受ける権利であり、請求権者の個人的な事情に基づくものです。
第三者に譲渡されることは、被害者保護の観点から認められていません。
また、「扶養請求権」も個人の生活に直結する権利であり、親族関係や生活状況に依存しているため、第三者への譲渡は原則として禁止されています。
さらに、個人の特性に基づく役務提供契約の権利(個人講師やコンサルタントが提供するサービスに関する債権など)も同様で、契約者本人の特性や技能に基づくものであるため、第三者に譲渡することはできません。
このように、個人特有の権利に基づく債権は、譲渡されると権利の本来の趣旨が損なわれるおそれがあるため、法律上保護されています。
ファクタリングにおける債権については下記コラムで詳しく解説しています。
ファクタリングの「債権」とは?譲渡の違法性から取り扱う種類まで詳しく解説

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